タミフル備蓄講演 2008年9月25日(木)

タミフル備蓄に関して 

 今回の講演の主眼は、タミフルの備蓄に関することですが、タミフルの備蓄に関しては、当国の薬事法により通常の商品のようなご購入はで きず、購入された場合、タミフルの保管は医療機関が行うことになり、ご自身で保 管することはできません。

 そのため、購入の是非、購入されるとすればその量などを決定するにあたり、タミフル及び備蓄に付帯する問題、インフルエンザという病気そのものやシンガポール政府の対応に対する知識が必要となります。既に、御存知の内容も多いとは存じますが、ご確認のため、今一度、ご一読いただきまして判断の材料としていただければ幸いです。 

(注)この資料は、925日に行いました講演会の際にお渡しした資料をスライドと合わせて作成したものです。著作権や容量の問題から削除いたしたものもございますが、ご了承いただきますようよろしくお願い申し上げます。

20081105日                  

シンガポール日本人会クリニック医師

                              日暮 浩実

鳥インフルエンザの発生状況など

2008910日世界保健機構(WHO)発表

2008年度

全世界 

患者数 36名 死者 28名 死亡率 77.8%
インドネシア  患者数 20名 死者 17名 死亡率 85.0%

2003年~2008910日発表分までの累計

全世界

患者数 387名 死者 245名 死亡率 63.3%

インドネシア

患者数 137名 死者 112名 死亡率 81.8%

 

鳥インフルエンザ疑い患者とは?

下記第1条件かつ第2条件に当てはまる方。

(鳥)インフルエンザを疑わせる第1条件

 MOHの定義では“38度以上の発熱があり、下気道感染を起こしている方で、咳、息切れ、呼吸困難などがある方。” となっていますが、厳密にこの定義ににあっているかどうかを、判断することは実際には出来ないと思います。ですので、現実的には、概ね38度以上の熱があって、風邪のような症状がある方としてよいと思います。

 この条件は普通の風邪でも当てはまりうるので、もちろんこれだけで鳥インフルエンザを疑うわけではありません。実際は第2の条件が重要な意味を持つことになります。

2条件

以下の接触の定義に当てはまる方。

 接触の定義(鳥インフルエンザに関して)

 条件1の症状が現れる前、1週間以内に以下のいずれかの事項に当てはまる方

a) 鳥インフルエンザの患者または疑いのある人と1m以内の距離で接触(世話をした、会話した、触ったなど)
b 過去1ヶ月以内に鳥インフルエンザまたは疑い例の発症があった地域で、鳥に触れたり、鳥の屠殺に関わったり、鳥の死骸、糞便などと接触があった方。
c)

過去1ヶ月以内に鳥インフルエンザの発症があったまたは疑い例があった地域で、生の鳥肉や よく火が通っていない鳥肉を食べた方、または接触した方。

d) 鳥インフルエンザにかかっている何らかの動物(犬やぶたなど何でも)と接触があった方。
e) 実験室などで鳥インフルエンザウイルスを扱っていた方。

疑い患者さんへの対応

感染防御

 まず、第一は、この人にマスクをさせることです。 

 迅速にこれを実行するには、マスクを会社のどこかに備えておくことが必要です。。。なんて悠長なことを言っている時ではありません。最も良いのは、この社員が自ら、気づいたときにいち早く、マスクをすることなのです。そのためには、常日頃から、社員にマスク(サージカルマスク)を携帯させて怪しいときにはすぐに着用するようにしておくことが肝要です。会社の行なう備えの第一はサージカルマスクを常に社員一人一人に持たせることです。通販などでも買えます。

その後の対応

隔離、状況把握

 さて、次は?

 こうした患者が出た場合、ケアをする人(誰か特定の人を指名しておいても結局はたまたま、近くに居合わせた人となることが多いと予想されます。つまり、社員全員が、自分がケア役になることを常日頃から覚悟して備えておく必要があります)が、N95マスク*をして、一旦、別室などに誘導隔離しながら、鳥との接触歴の有無をすばやく聞きだします。 トイレも専用とします。

 *N95マスクは感染防御用マスクです。SARSに際し有効でした。予め、会社で購入しておくことをお勧めします。最近はさらに性能のよいN99というマスクもあります。

鳥との接触歴の定義は上述のとおりです。

 

医療機関への受診

 ここで上述の第2の条件に当てはまらなければ、そのまま、隔離を解いて、その社員に、医療機関を受診するよう指示して下さい。もちろんマスクはしたままです。通常のインフルエンザまたはそれ以外の病気も考えられます。(ほとんどの場合はこうなるはずです。)

 もし、上の第2の条件にあてはまるとなれば、もちろん、医療機関を受診するわけですが、まず、これから行く医療機関に電話をして下さい*。そして、患者の氏名、年齢、パスポートナンバー、本人の携帯電話、会社名、病状などをお知らせ下さい。Alert GREENの段階では一般の方は特別の救急車は呼べません。一旦、何らかの手段で医療機関に行かなければなりません。もちろん患者さんはマスクはしたままです。交通手段は会社の車かタクシーが候補になるでしょう。タクシーの場合でしたら必ず、窓を開け、領収書をもらうことです(後で接触者検診に役立ちます)。会社の車でも窓を開け、ドライバーにN95マスクをさせることです。

 または、一般の救急車を呼ぶことも出来ます(これが最も無難かもしれません)。ただ、依頼時に状況を十分に伝えることが必要です。医療機関では万全な感染防御対策をして対応し、診察の結果、疑いが濃いとなれば、患者さんはTan Tock Seng 病院の付属施設であるCommunicable Disease Center(CDC、伝染病センター)に搬送されることになります。

 *受診前に電話連絡する理由

 直接来院されますと、その患者さんが本当に鳥インフルエンザであった場合、その医療施設その施設のスタッフ及びたまたま居合わせた患者さんも全て接触者となる可能性が生じます。接触者は毎日、健康状態をチェックされることになります。

  Alert YELLOW(つまり新型インフルエンザが世界のどこかで発生している状態)では鳥との接触歴は必ずしも、必要ではありません。新型インフルエンザが発生している国に行ってきたことが意味を持ちます。そうした方で、インフルエンザのような症状を示した人がいたら、直接、特別の救急車を呼ぶことができます。番号は993です。患者さんはやはりTan Tock Seng 病院の付属施設であるCommunicable Disease Center(伝染病センター)に搬送されることになります。もちろん、一旦、他の医療施設を受診することも出来ます。ただ、必ず、来院する旨を予め、電話連絡し、医療機関の指示を受けてください。

 直接来院された場合は、その医療施設のスタッフ及びたまたま居合わせた患者さんが接触者となる可能性が高くなり、実際に接触者となれば、一週間の自宅待機となります。スタッフの多くが接触者となればクリニックも閉鎖せざるをえなくなり、医療を提供できなくなります。影響は甚大ですのでくれぐれもご注意下さい。

Ministry of Health ( MOH、シンガポール厚生省)への連絡、接触者のリストアップ

MOHへの連絡

 医療機関ではMOHに一報を入れます。そのために必要な情報として患者さんの氏名、年齢、パスポートナンバー、本人の携帯電話、住所、渡航歴、病状などをお知らせ下さい。また、会社の名前、住所、患者さんの所属部署、担当者の名前、部署、連絡先(携帯電話番号も)なども教えてください。ここで担当者と申し上げましたが、この方のことをPoint of Control (POC)と呼びます。POCは次に述べる接触者トレーシングチーム(Institution Contact Tracing Team, ICTT)のリーダーになります。疑い患者さんが本当に鳥または、新型インフルエンザだと確定診断された時に、MOHと直接連絡をとって、指示を受ける役目もします。

 このPOC、ICTTを誰がやるかは、予め、決めておく必要があります。これがどのようなものかの詳細はMOHのウエッブサイト(最初の画面の左下のGuide on Infection Control Measures for Workplaces)を参照してください。

 Alert YELLOW以上の段階では、MOHへの連絡は会社が直接行なうことになります。HOT LINIE 1800-3339999が良いでしょう。

 

接触者トレーシング、ICTTの役割など

 MOHに一報を入れたことで会社側がやることが終わったわけではありません。

この患者さんが本当に鳥または、新型インフルエンザであった場合には接触者を報告しなければなりません。これは感染を広めないためにとても重要なことです。

 確定診断は遺伝子を標的とした検査(PCR法)などで行なわれますが、結果が出るまでには早くても数時間以上かかります。それまでは行動しなくてもかまわないのですが、真の感染者であると考えて予め、行動を開始しておいたほうが無難でしょう。

 ICTTが、まず、行なうことは、この患者さんと接触があった人、つまりこの患者さんが症状を出し始めた時点の48時間前から病院に隔離されるまでの間に2メートル以内の距離にいたことのある人を全てリストアップしておくことです。

 実際、この患者さんが社外でどのような行動をし、誰と接触したかについて完全な報告をすることは不可能に近いかもしれませんが、できるだけ、正確を期すようにしましょう。ただ、社内での行動や接触者についてはかなり正確に報告できるはずです。こうした接触者の追跡(トレーシング)を行なうのがICTTです。

 ちなみに、会社や公共施設では、Alert ORANGEの段階から、全ての訪問者を記録すること(何時から何時まで誰とどの部屋でなど)と体温チェックが強く勧められています。詳細はMOHのウエッブサイト(最初の画面の左下のSingapore Influenza Pandemic Plan)を参照して下さい。

  そして、検査の結果、その患者さんが感染者であると確定診断されれば、MOHへその旨を連絡し、24時間以内に、接触者のリストをMOHへ電子メールで送ってください。送り先はMOH MCT@moh.gov.sgです。

 リストのテンプレートはMOHのウェッブサイトの 中の

 http://www.moh.gov.sg/mohcorp/diseases.aspx?id=13090#template

からダウンロードできるようになっています。名前だけではなく、住所やパスポート番号なども記載しなくてはなりません。一度、お時間がある時にあらかじめ見ておいていただけると良いと思います。

 その後は、MOHからの指示に従って下さい。鳥インフルエンザの段階では、人から人へ直接移る可能性は高くはないものの、接触が濃かった人は、自宅に留まることを求められる可能性もあります。会社は毎日電話でその方の健康状態を確認することになります。

 また、Alert YELLOW以上の段階では既に、新型インフルエンザが出現している、つまり人から人への感染がおこりやすくなっている状態ですので、接触者は1週間の自宅待機、そのなかで、感染防御なしに接触者した人やその他必要と思われる人などは10日間の抗ウイルス薬の予防内服も行なわれます。実際に誰が、自宅待機し、予防薬を飲むかは全て会社が提出した接触者リストを基礎にMOHが判断しますので、POC, ICTTの役目は大変、重要です。今のうちにシミュレーションをしていただくと良いと思います。

 ちなみにAlert ORANGEの段階では、新型インフルエンザの発生がある国へ行って来た人は、発病していなくても、1週間の自発的な自宅待機が求められます。また、会社は、電話でその社員の健康状態を毎日チェックすることになります。(MOHのウエッブサイト、Guide on Infection Control Measures for WorkplacesP4参照)

クリーニング

 会社としてもう一つ大切なのはクリーニングです。もちろん、下記に示したように行なって頂くのは鳥または新型インフルエンザと確定された場合ですが, 検査結果が出るまでには時間がかかりますので、その間、患者さんが使用した場所は封鎖しておく必要があるでしょう。共有施設内にあるもの(例えば患者さんの机、電話など)は診断確定前にでも、下記の注意に従いクリーニングしてしまうほうが無難だと思います。(MOHのウエッブサイト、Guide on Infection Control Measures for Workplaces、pp.6-9参照)

 クリーニングの対象箇所は患者さんがいた場所、使用した物(患者さんの机、隔離された部屋、使用したトイレなども)になります。

1 まず、クリーニングに当たる人は使い捨てのゴム手袋、ガウン、N95マスクを着用して下さい。うっかり、鼻や口などを触らないようにして下さい。ゴーグルを使用することもお勧めです。清掃中に使用した、使い捨てのガウンなどは、使用後は確実に破棄して下さい。ゴーグルは仕様書に従い、滅菌して下さい。
2 清掃が終わったら、ガウンなどを脱いで、すぐに手を石鹸でよく洗ってください。
3 清掃に使う用具は必要最小限にして下さい。
4 換気のために窓を開けてください。
5 Sodium Hypochlorite 1%を使って床にモップをかけて下さい。
6 患者さんが触れたと思われる箇所(ドアノブ、肘掛、背もたれ、テーブル、空調や電気のスイッチ、キーボードなど)やトイレなどは殺菌消毒薬(Sodium Hypochlorite 1%など)を使って全て拭ってください。これが使えないところは70%isopropyl alcohol60%ethyl alcoholが使えます。
7 壁やブラインドも3メートルの高さまでは、拭いて下さい。
8 カーテンは洗濯に出してください。
9 複数の部屋を清掃する必要がある場合には、清掃用具は次の部屋を清掃する前に一旦、殺菌して下さい。
10 バケツは使用前に殺菌剤かまたは熱湯ですすいで下さい。
11 雑巾やモップは殺菌剤で殺菌して熱湯で完全にすすいでください。
12 物の表面を殺菌するときに殺菌剤をスプレーしないで下さい、スプレーするとウイルスが空中に舞うことになるからです。雑巾などを使用して拭って下さい。また、清掃中に液体をはね散らかすことも同様に危険です。静かにしっかり拭うことが大切です。この意味で掃除機の使用は避けてください。
13 念のため、その部屋の使用は清掃後、24時間経過してからにしましょう。

新型インフルエンザのできる仕組み?

 A型インフルエンザはその表面にある2種類の物質、ヘマグルチニン(H)(9種類)、ノイラミニダーゼ(N)16種類)の組み合わせの数(計算上は144種類)の種類が存在します。これらはシベリアの鴨の腸にリザーブされています。ヒト型で新しいH,Nの組み合わせができた時、新型インフルエンザが発生したといいます。

ブタは鳥、人両方のウイルスに対するリセプターを持っています。そのため、豚が鳥インフルエンザが人インフルエンザと同時感染して新しい遺伝子の組み合わせが出来る可能性があります。

 また、鳥インフルエンザが偶然、人への感染を繰り返すうちに遺伝子変異を起こして、新型となることも考えられます。

豆知識

 インフルエンザにはA,B,C3つの型がありますが、人に病気を起こすのはA,Bつです。

このうちA型が、数十年に一度大きな遺伝子変化(新しいH,Nの組み合わせが出現すること)をおこし、大流行します。

 今までスペイン風邪 H1N11917-18, 全世界で死者4000万人)、アジア風邪H2N21957, 200万人)、香港風邪H3N21968, 100万人)の3種の新種がありました。逆に言えば人型はたった3種しかありません(将来新たな組み合わせが出現するのは必死)

 ちなみに今年の通常インフルエンザはこれらが小変化したものです。H,Nの組み合わせはもちろん既出です。下に示します。

A/Brisbane/59/2007(H1N1)-like virus

A/Brisbane/10/2007(H3N2)-like virus

B/Florida/4/2006-like virus

 これらはスペイン風邪や香港風邪と同じなのですが、最初に出現した時に比べ死者は極わずかです。これは皆がある程度の免疫を持っているからです。

 

シンガポール政府の対応

 警戒レベル(Alert Level)にあわせた対応策をインターネットで公開しています。

シンガポール厚生省(http://www.moh.gov.sg

 Pandemic (Alert Red)になったら、FRAME WORKが稼働しはじめ、800箇所以上の外来クリニックで治療が受けられるようになります。(後述)

 シンガポール政府のタミフルの備蓄は人口の30%程度とのことです。ちなみに日本は22%です。

大きな医療施設では、感染をなるべく広めないために、初期対応の演習訓練を行なっています。日本人会クリニックでも200872日に実施しました。

 国を挙げての演習は20065月から7月にかけて2回行なわれました。SPARROWHAWK Ⅰ,Ⅱと名づけられたこの演習の参加者は18000人、7カ国からオブザーバーが訪れました。模擬の患者を空港や、陸路の国境にもぐりこませ、きちんと見抜けるか、其のあとスムーズに搬送できるかなどが、試験され、成功裡に終了したとのことです。

 バタム島やビンタン島などシンガポールに近く、往来の多い地域に検査キットの供給や住民教育のミッションを行なったとのことです。

Alert level (警戒レベル)

 シンガポールのMOHWHOPhase分類をアレンジしたもので、世界のインフルエンザの現況を反映しています。ですから、WHOPhaseが上がれば、同時にAlert Level(警戒レベル)も上がります。例えばWHOPhase4で、シンガポールの警戒レベルがAlert GREENなどいうことはありません。WHO Phase 4ならばAlert YELLOWになります。

Alert Level(警戒レベル)

Alert GREEN Level 0 (WHO Phase1)

世界のどこでも新種のインフルエンザウイルスの出現がない状態。

Alert GREEN Level 1 (WHO Phase2-3)

 動物間での流行が起きて、新しいウイルスが出現する可能性が世界的に懸念される状態。動物からヒトに感染する例が見られることもあるが、ヒトからヒトへの感染はないかまたは極めて濃厚な接触をした場合のみ。ヒトからヒトへの感染の確率はまだ低い。(つまりAlert GREENではインフルエンザは基本的にはヒトではない他の動物に限局されている状態ということになります。)

Alert YELLOW (WHO Phase 4)

 限定的ではあるが、新型インフルエンザによるヒトからヒトへの感染が、感染源の患者との濃厚な接触の場合に起きている状態。隔離などの公衆衛生的手段などにより感染の拡大は抑え得る。シンガポールへのウイルスの侵入リスクは高くなっている。しかしながら、孤立的な輸入例が見られても持続的な感染の拡大には至っていない。

Alert ORANGE (WHO Phase 5)

 世界的、シンガポール国内にもヒトからヒトへの感染の集団発生がある。ヒトからヒトへのウイルスの感染はより起こりやすくなっているが、まだ、完全ではなく、感染には感染源の患者との近接な接触が必要。それぞれの集団発生には終息が見られる。

Alert RED (WHO Phase 6)

 世界的流行が進行中。ウイルスは完全にヒトヒト感染する型に変異している。シンガポールへの侵入も不可避。感染源は特定できず、ひとたび、シンガポールに広がれば市中感染の危険は高い。

Alert BLACK (WHO Phase 6)

 重症例、死亡の率が高くなったことを示すレベル。流行の拡大により、病院機能、公共サービスも支障が生じる。経済活動が著しく阻害される。

実際にパンデミックになったら(Alert RED以後)

 シンガポール政府は国内に住む居住者のため、人口の約30%分のインフルエンザ治療薬(タミフル)を備蓄しています。パンデミックの際には、約1400あるシンガポールの外来クリニックの約60%800箇所以上)の施設に、政府が責任を持ってタミフルを供給し、居住者が治療を受けられる制度を既に確立しています。ですから、パンデミックになっても医療施設に行って治療を受ければよいのです。

 

そもそもタミフルって何?

タミフルの働き

 タミフルはインフルエンザウイルスに対して効果があります。しかし、タミフルはインフルエンザウイルスを殺す薬ではありません。ウイルスは人間の細胞に取りついた後、人間の細胞の装置をのっとってその中で増殖します。そして、ある時期になりますと、その細胞から飛び出ていき、また、別の細胞に取りつきそこでまた増殖するのですが、タミフルは、この飛び出るところをブロックします。その結果、ウイルスは他の細胞に移れず、最初に感染した細胞に閉じ込められてしまいます。そのうちに、人間が本来持っている免疫細胞によって、その細胞ごと食べられてしまいます。こうして病気は治っていきます。

タミフルの効能

 上に述べたような作用機序から、タミフルはインフルエンザウイルス全般に効果があるといえます。ですから、当然、新型インフルエンザに対しても効果があると期待されます。ここで、はっきり効果があると断言できないのは、まだ、新型インフルエンザが出現していないので、効果を確認することが出来ないからです。気がかりなこととして通常のインフルエンザで既に、タミフルが効きにくいインフルエンザ株も確認されています。北欧などでは検査した株の半数以上がタミフル耐性の株であったという報告もあります。

 一般に薬を使うほど耐性の株が出る確率が高まるとされていますので、必要最小限の量を使っていくことが大切です。

タミフルの予防的使用

 タミフルを予防内服として使うことも出来ます。しかし予防内服として有効なのは、薬を飲んでいる間だけです。今飲めば、以後ずっとは有効だとか言うことはありません。飲んでいる期間だけです。ですから、近くの誰かがインフルエンザになって、予防内服しても、次にまた別の近くの人がインフルエンザになったら、また、飲まなければ予防効果は得られません。永遠にタミフルを飲み続けることはできません(長期連用時の安   全性は確立されていません)から、予防的にはワクチンが優れていることになります。

ワクチンとタミフルの位置づけ

 こう考えますと、タミフルは最終兵器ではありません。むしろ、ワクチンが出来るまでの“つなぎ”と考えていただいたほうがいいように思います。ワクチンが出来るまでには流行がはじまってから4-6ヶ月、全員にいきわたるまでにはさらに数ヶ月以上が必要でしょう。

 少なくともこの間にタミフルがずっと効力を保ち続けてくれなくては困ります。

 なるべく、タミフル耐性株が現れないようにする一つの手段は、逆説的ですが、なるべく使わないことです。といっても、患者さんに使わないわけにはいかないので、なるべく患者数を少なく済ませること、つまり、公衆衛生的努力が大変大切なのです。

 今、大量にタミフルを買えば、精神的には安心かも知れませんが、これが将来にわたって、現実的に安全な方法とは言い切れません。タミフルを買うお金を少し抑えることができ、その分、ワクチンの費用に廻したほうが感染防御効果、経済的には見合うのですが、どの程度の量が適切なのかはわかりません。

 インフルエンザは毎年少しずつ、変異していきます。ワクチンを一度打ってもそれがいつまで有効かはわかりません。今までと同じように、毎年、ワクチンを打ちなおしていくことになります。

 しかしながら、新たな大きな遺伝子変化がおきなければ、集団としての免疫が成立し、流行も大きくならなくなり、死亡率も低くなります。

 また、現在、抗インフルエンザウイルス薬としてリレンザという吸入薬もあります。また、新しい薬も開発されつつあります。(日本、富山化学、2008822日、朝日新聞)

 また、シンガポールで小児用のドライシロップは入手できなくなりましたが、その代り大人に比べて小さい剤形のカプセルが承認されようとしています。

 

一般的な薬の入手、管理とその意義

医療の原則

 一般企業の方は直接薬剤会社から薬を買うことはできません。薬は適時適切な使用が何よりも欠かせません。薬を使うためには医療施設を受診し、医師が診察し、診断し、必要に応じて処方箋を発行するという手続きが必要です。(医療法)一見、邪魔に見えるこの手続きが、実は、薬の乱用を避け、必要な時に必要な人にだけ、また、結果として必要な人に最初に薬が届くことを保証しています。

 例えば、薬が手元にあったら、恐れに駆られて新型インフルエンザでない人でも、(ただの風邪でも)タミフルを飲んでしまう人がでるでしょう。多くの薬が無駄に使用されるばかりか、本当の病気の治療が遅れることにもなります。

 また、こうした規制がなければある企業がある薬を買い占めることも可能でしょう。そうしたら、本当に薬が必要な人に薬が回りません。または、大変高い値段を吹っ掛けるといったことも可能になってしまいます。

タミフルの扱いも一般の薬剤となんら変わりはありません。その意味で、タミフルを一般の企業で備蓄 しようとすること自体、本来、おかしな話なのです。

 一般企業の方が、ご自身の倉庫にタミフルをおいておくことは、厚生省の許可を得たのでない限り、本来は法律違反なのです。

 しかし、タミフルを持ちたいという要望が多いのは事実です。

一つの解決策?

今回のロシュ社の提案

日本人会を利用されたい場合

 タミフルの販売元のシンガポールロシュ社はこうした事情を鑑み、新たな方法を考え出しました。それは、クリニックが企業から注文を受けロシュから、タミフルをその企業用に買うのですが、保管は医療機関が行うというものです。

ですから注意していただきたいのは、

 今回の購入をしただけでは薬は手元にはわたりないということです。

ですから、たとえば、インドの支店に置くための薬をシンガポールで購入しようとしてもそれは不可能なことです。

 今回の方法でも、実際に個人がタミフルを手にするには、受診→診察→診断→処方といった経路を経なくてならないことには変わりはありません。つまり、ロシュ社の方法は、この順番を入れ替えて、処方を先にして、後で受診、診察、診断するというものです。または、こうした手続きを経なくては、実際には薬は手元に来ないのですから、実体としては薬を将来手にする権利を買うにすぎないと考えてもいいでしょう。

 さて、タミフルを入手する上で何か問題点はないのでしょうか?

実はあります。それを次にご説明いたします。

問題点

1. 所有形式から起こる問題

 さて、こうして手に入れた備蓄分タミフルはいつ使うことになるのでしょうか?

 病気になった時に自分が新型インフルエンザかどうかを診断してもらうためには医療施設を受診する必要があります。最初に申しあげましたとおり、シンガポールの多くの外来クリニックで治療が受けられる体制ができています。そこで通常の病気と同じように治療を受ければよいわけです。

 結局、備蓄分タミフルを使うのは、その、医療施設に薬がない時、つまり、国の供給が底をついた時に初めて使用されることになります。(国からの供給が一時的に間に合わない時にも運用されることはある)こうした状況ですから、タミフルの新たな入手はどこからも困難な状況です。

 さて、そこで、各企業が、各企業のためだけに、タミフルをもっていたらどんなことが起こるでしょうか?例えば、企業Aで、多くの患者さんがでたとすると、その企業のストックはすぐに尽きてしまうかもしれません。そこで、また、企業Aの新たな患者さんがクリニックに来られたら、例え、企業Bのためのストックは残っていても、その方を治療できないことになってしまいます。特に死亡率がある程度高ければ、かなり切実な問題です。現場は殺伐とした状況になるでしょう。契約だから仕方ないとしてその方を見すてるのでしょうか?また、どこかの企業に泣きついて、ストックを回してもらうのでしょうか?こんな場合に一体どの企業にご協力を願ったらよいのでしょうか?

 こうした事態が起こったのは、あらかじめ、薬の所有者を決めておいたことが大きな原因です。所有者を決めず、みんなでタミフルを共有すればこんな問題は起こらなかったはずです。

 または、各企業のタミフルの購入量が十分でなかったと批判する人もいるかもしれません。しかし、十分量とはいったいどれくらいの量のことでしょうか?誰も計算できません。自分のところだけで賄おうとすると非常に大量のタミフルを購入しなくてはなりません。これは経済的にも負担ですし、実際には使用されないタミフルが大量にでてしまいます。デッドストックが大きくなります。今、タミフルが必要な患者さんに薬が回らなくなるかもしれません。患者さんを治療できなければ、それは感染の拡大を助長することになり、

 流行そのものを広げる結果になり、さらに多くのタミフルが必要になるという悪循環を生みだします。

 ですから、薬はなるべく大きな団体(国や自治体など)が一括して保有しておくことが、経済的にも、流行を抑える意味からも、混乱を避ける意味からも、最も理にかなっているのです。この意味でシンガポールのframe workが最も適切なやり方だと思います。

 本来ならシンガポール政府にすべて任せておくのが理屈の上からは正しいですが、やはり、もしかしたら供給不足に陥るかもしれないと考えて、日本人会は共有分のタミフルを買うことを決定いたしました。購入量は3000人分です。日本人会という枠でも小さいかも知れませんが、協力を得られる実行可能な範囲ということで、我々としては日本人会という枠が薬を共有できる最大の団体と考えました。このタミフルは、皆様の共有財産です。共有分で名前がついていませんから、来院された患者さん、つまり、今、最も薬が必要な患者さんから順番に薬を処方できます。デッドストックを最小限に抑えられます。こうした貴重な薬剤資源保護の面だけで無く、日本人社会の中ではみんなで共同してインフルエンザに立ち向かおうという意識が生まれるという利点もあると思います。

 インフルエンザは伝染病です。一企業内だけの安全を考えても解決できません。集団安全保障が最も安全で効率的な方法だと思います。

有効期限

 タミフルの有効期限は現時点では製造日より5年ですが、医療機関が入手する時点で既に有効期限が2-3年過ぎているのが常です。誰しも有効期限が長いものを購入したいと思いますが、買う側ではこれは指定できません。(薬はもともと、備蓄のためには作られていないからです。)

 但し、最近の知見によれば、化学物質的には、正しい保存状態を維持すれば10年は有効であるとのことです。法律上の期限が過ぎた薬を実際に処方できるか否かは別に考慮するとして、これを信ずるならば、有事緊急の際には、5年以上過ぎたものでも、薬効が期待されるますので、保存し続けたほうが得策ということになります。

 保存条件として、多湿の環境には弱いようですが、保存規定上限の25度を超えても薬効は保たれる(もちろん程度によります)可能性があります。

日本人会(クリニック)が持つことに伴う危険

 クリニックが持つことを是とする際に、各企業分、共有分を問わず、クリニックが機能していることが前提となっていることにお気づきでしょうか。クリニックが機能しなければ、薬は処方できません。しかし、現状では、法律上、会社が薬を保管できないのですから、クリニックが管理するより他に方法はありませんので、現時点で議論する意味はありませんが、考慮はしておく必要があります。

 クリニックの恒久的機能不全とは回復不可能な機能不全つまりスタッフの死ということです。ただ、死亡せずに回復すれば、免疫がつきますので、機能は一時的に不全に陥っても、回復します。

恒久的機能不全に陥った時の解決策は未定ですが、

 

解決策の候補となりうるものとしては、

企業としては

案① いくつかの医療施設で分散して備蓄する。

クリニックとして

案① 他の日系クリニックへ薬を廻す。

案② タミフルを配布してしまう。(方法?)

杞憂?

タミフルの購入

 タミフルのご購入は今までの説明を総合的に判断して御決定下さい。

 今回の購入方式はご期待に沿えたものでは無いとは思いますが、法律内で行なうとすればこうした方法をとらざるを得ないことをご理解いただければ幸いです。

 

まとめ1(購入に際してのまとめとご注意して頂きたいこと)

まとめ2(そのほか、購入に当たり考慮に入れて頂きたい事)

参考

JOHAC(海外勤務健康管理センター)ガイドライン

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