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心療内科って何?

「心療内科」という言葉を御存知ですか?このところ、随分と市民権を得てきましたが、日本で公に診療科として認められるようになったのは、1996年のことです。認められて間もない赤ちゃんのような名前です。

赤ちゃんのような言葉には、誤解が付き物です。医療関係者に「療内科(?)ですね」と書かれることもあったり、「心療内科の医師は、内科も診られるのですか?」「精神科とどこが違うのですか?」と聞かれることも度々あります。

では、正解は?

心療内科とは、原則的には内科から派生した分野です。元来、心療内科ではストレス性の胃潰瘍や潰瘍性大腸炎(腸に潰瘍ができる疾患です)、喘息・アレルギー性皮膚炎など精神的ストレスが症状の悪化に大きな役割を担う病気を、最も得意な分野としてきました。

学校で居場所がないために、胃痛をおこしているAさんが病院に掛かりました。痛みがひどいために、念のために胃カメラをやったところ、軽い胃炎が見つかりました。医者は、「これくらいの胃炎なら、胃酸止めと胃けいれん止めを飲めば、すぐに改善します」と胃薬を二週間分出しましたが、二週間後に症状は改善せず、Aさんは再び病院に戻ってきました。症状が長引くので、もう一度胃カメラを行ったところ、医者の考えたとおり、前回に見られた胃炎の所見は、完全に改善していました。

「胃炎の所見は胃薬で完全に改善した、だけど胃痛は改善しない」医者の治療は合っていたけれども、症状が改善しない。こんな時に、心療内科的治療が必要とされます。胃に負担をかけている自律神経のアンバランスを改善したり、緊張のために胃への血流が減少していれば改善を図ったり、ストレス源が何かAさんと話し合ったり、実際にAさんがリラックスできるような薬を処方したり、環境を調整したり。Aさんの胃がスムーズに動いてくれるように色々な方面から働きかけていく分野です。

この例のように、実際の診療では心療内科の存在は内科の一部分野と重なり、内科と精神科の間を埋めるような形で存在しているように感じます。

どんな診察なのか?

初診の患者さんがみえたとき、皆さん大変緊張した様子でいらっしゃることが多いようです。「迷いましたが、様子を見ていても体調が改善しないので来てみました。」「勧められたので来ました。」このような感じで、診察室に来たとき、「はて?本当に心療内科に来て良かったのだろうか?」と不安に思っている方もいらっしゃいます。

そして、症状を伺ってみると、「今年に入ってからずっと体調不良です。」とか、「出産をしてから、疲れやすい状態が1年くらい続いています。」とか、本当に長い間、症状に耐えながら生活していらした方が多いことに、私の方が、驚かされてしまうのです。時には、「シンガポールに来て4年になりますが、来星して半年くらいから、ずっと調子がすぐれません。」と年余に渡って症状を抱えながら生活している方もいらっしゃいました。

患者さん方の忍耐強さに驚かされると共に、心療内科への受診がこんなにまで敷居の高いものになっている状態を、医療者側が反省しなくてはならないとも考えます。

今回は、症例Bさんの経過を例にとりながら、等身大の診察現場を知って頂き、心療内科の診察を身近に感じていただければと思います。

<症例Bさん:30歳代:主婦>

Bさんは、現在、5歳と1歳になる男の子を持つ主婦です。下の子が8ヶ月になった20024月にシンガポール駐在家族として来星されました。

来星当初から、上の子が幼稚園に馴染まず毎朝大泣きする状態が、約1ヶ月間続いていました。なんとか幼稚園に送りだしても、帰宅するとBさんにべったりと甘えて離れません。下の子は、いたずら盛りで目が離せないし、お兄ちゃんは少々赤ちゃん帰りしているようだし、頼みの綱のご主人は、新しい職場に慣れることで手一杯のようだし、Bさんは「この状況は私が頑張って乗り切るしかない。」と考えました。元来甘え下手のBさんは、困った状況でも自分で抱え込んでしまうところがありました。

夜は、下の子の夜泣きに付き合い、早朝にお兄ちゃんを幼稚園になんとか送り出し、午前中一杯は横になって休憩。お兄ちゃんが園から戻ると、午後は子供達のペースで振り回され、夕食の準備・お風呂の世話に追われる日々が続きました。そんなある日、日本の実母に電話中、急に涙が溢れてきてしまいました。何とも言えない疲れ・虚脱感、日本への懐かしさ、シンガポールに居る寂しさ・孤独感。色々な気持ちが入り交じった涙であったようです。

こんな気持ちを引きずったままで生活が続いていましたが、疲れがとれない、生活を楽しむ体力がないことを他の病院で相談したところ、心療内科の受診を勧められ、20031月に当診療所に受診となりました。

診察室では、まずBさんの困っている症状を詳しく伺います。どんな状況の時に症状が出始めたか?どんな経過をたどってきたか?一時帰国などで症状が改善したか?現在、症状はどの程度深刻か?

次に、身体の診察を行います。Bさんの場合には、疲れをおこしやすい疾患?例えば、貧血・低血圧症・心臓の病気・甲状腺の病気・肝臓の病気・糖尿病などの可能性が無いか、特に注意して診察を行います。

その後、どんな病気が考えられるのか?どんな検査が必要か?また、どんな治療法があるのか?を説明します。

勿論、一回だけの診察で診断がつかない場合や経過を追って診断をした法がよいときには、その旨をお話しします。また、「薬にたよって治療したくない。」というご希望が強い場合には、じっくりと相談し経過を観察しながら方針を決定してゆきます。ここまでで、初回の診察は30分から40分です。

Bさんの場合は、「気分の落ち込みを伴った適応障害」と診断されました。内服薬で、1ヶ月後には症状が改善し、ご主人にも協力を願って環境を少し変化させ、3ヶ月後には、シンガポール生活を楽しむ余裕も出てきました。

心療内科では、このような診察が行われています。

次回は、どんな症状の時に心療内科を利用したらよいのか、まとめてお伝えしたいと思います。