
医師 小川原 純子
|
前々回「大人のADD(注意欠陥障害:Attention Deficit Disorder)」についてまとめましたところ、たくさんの方から感想を寄せていただきました。大方のご意見は、「もしかして、私もその傾向があるのでは?」「うちの子が、正にそうです」など。身近に、「あらっ??」と思う人が、意外と多いことに気付かされます。 実を言えば、私自身にも、不注意の連続の日があります。「洋服を取りに部屋に入ったのに、汚れたカップだけ手に持って、台所に戻って来る」そこで、はっと気付き、「いやだな?、私ったら…」と自分が情けなくなること、ありますよね。鞄に入れようと、玄関にまで用意した書類を、すっかりそこに置き忘れ。いざ必要な時には、何処に置いたか思い出すのに間が掛かる。なんだか自分の失敗談を披露している様で、ここまでにしておきますが、この様な失敗を皆さんも少なからずお持ちだと思います。 |
|
ADDの人の特徴は、少なからず「自分は、同年代の人と違う点があって、この世の中で、『生きていきにくいな?』」と感じていることです。「他の人と同じ事をするのに、非常に努力が必要である」という感覚を訴える方もいます。この様な「他人と自分との違い」は、早い子では小学校3年生くらいから自覚しています。普通でも、小学校4年生でしょうか。 「みんなは、興味の無い話でもジッと聞いていられるのに、自分は何か別の事をしたくなってしまう」「何か気になってしまうと、やらなくちゃ気が済まない。大事なことになかなか取り掛かれない」「授業中先生の話を聞いて、みんなはしっかりノートを取っているのに、自分は、ついほかの事を考えてしまって、気がつくとノートが取り終わらない」「一番になりたいのに、コツコツと頑張れない」「面倒臭くなっちゃう」。 子ども達の表現は様々ですが、実際に「頑張らなくてはいけない」と分かっている場面で、「つい」とか「面倒臭い」という自分が出てきて邪魔をされ、結果的に、自分がやろうと思っていたことが十分に出来ずに、後悔してしまうという流れです。 |
|
大人のADDでは、この「つい、集中が途切れてしまう自分」「つい、面倒臭くなって仕事を後回しにしてしまう自分」に対して、自分自身が厳しいルールを課している場合があります。社会人の場合には、「ここまで終わらないと、家に帰らない」「これを終わらせるまで、インターネットをつながない」など。この為、仕事が要領よく運ばないのに、ずっとオフィスにいることになってしまいます。朝家族に伝えていった帰宅予定時刻に帰って来れないこと、家族との約束が守れないことなどが特徴です。「一生懸命やっているのに、いつも整理ばかりで、仕事が適当に片付けられない」。こんな場合、上司にも、家族にも、大変不評です。「他の同僚の方は早く帰る日もあるのに、あなたはどうして毎日遅いの?」「帰ってくれば、疲れ果てていて寝てばかりだし…」。 奥さんの愚痴が聞こえてきそうです。 |
|
主婦の場合は、積み上げた雑誌やビデオや衣類の山を見て、「今週こそは、絶対片付けよう!」といつも思います。「これを片付けてしまったら、すっきりするだろう」と分かっているのです。「毎日、少しずつ片付けたらいいのに…。他の奥さんは、普通にきれいにしているのになあ?」とも思っています。いつか夫に「だらしない自分」を責められるのではないかと、不安に思っている人もあるほどです。 こんな自分とどう付き合えばよいのでしょう。自分の子供に、どう教育していったらよいのでしょう。 まず、一番大事なことは、「自分自身の個性を知ること」。決して、自分の欠点・短所として自覚して欲しいということではありません。そのままの自分を知って欲しいのです。 「片付けられない自分は、劣っている」と無意識に思っている場合、自分を曝け出してお願いすることは、恥ずかしいこと、情けないことになってしまいます。前例のご主人も、奥さんに帰宅の遅いことを責められれば、「自分の要領が悪い無能さを責められている」様に感じられて、ご主人の返事は必要以上に冷たくなってしまいます。「僕は仕事が大変なんだ。君には分からないだろう」と言ってしまい、余計な二次的波紋を引き起こしてしまいます。 |
|
ごく軽度のADDの傾向は、人生の中で長所に働くことも多いにあります。社会的に成功している人もたくさんいるのです。「自分は明るくて元気で、うっかりミスが多いけれど、それを長々と引きずらず、気分転換が上手な人。耳からの情報では忘れてしまい易いので、ホワイトボード・メモを上手に活用しよう」。 こんな風に、自分の個性と社会で生きてゆくための一工夫のように自覚を持つことが大切です。「ここ一番の大事なとき」や苦手な部分は、周囲の人の手を借りて、上手く乗り切ってゆこうという精神も大切。山積みの書類を前に一人悩むより、「僕は、営業が得意だけれど、雑務が苦手。○○さん、ここは夕飯おごりで残務整理助けて」と、言える努力と認識が重要です。 |
|
小学校高学年でADDという診断を受けた男子が、昨年、大学受験をしました。今まで、「自分がADDだ」とは決して認めず、「自分は、やる気になれば出来るのだから、心配しないで。放っておいて」と、主張し続けてきました。受験勉強も、随分遅くにエンジンがかかり、ご両親も私も心配しました。ところが、受験まで3ヶ月となったところで、本人が、お母さんに書類の山を持ってやってきました。「悪いけど、自分は願書みたいな書類は得意じゃないので、手伝って欲しい」。彼が、不得意分野を自覚して、周囲にSOSを出したのは初めてでしたので、お母さんも私も驚き、喜びました。今までは、「一人で抱えて、書類が期日までに提出されず、テストを受けられない」など、色々な失敗がありましたから。その子が、先回りしてお願いしてくるまでになったことは、大きな進歩です。 自分を知って、周囲と上手く溶け込む能力を高められると、エネルギーの節約になり、社会で自分の長所を生かせるようになるでしょう。この様な考え方で、自分の個性を受け入れてもらえたらと思います。 |
この記事に関するご意見、ご感想はFAXまたはE-mailでクリニックまでお寄せ下さい。
FAX 6467-1298 E-mail
clinic@jas.org.sg
ご相談がありましたらクリニックにお越し下さい。
●筆者紹介(おがわら・じゅんこ)
東京医科歯科大学医学部卒業 、東京医科歯科大学第一内科所属
国家公務員共済組合、九段坂病院にて心療内科
日本内科学会認定内科認定医 、日本心身医学会会員
2001年4月より現職