
医師 小川原 純子
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最近、外来には、新婚さんの受診が増えています。素敵な若い女性が相談に来てくれるのですが、たまりに溜まった気持ちを吐露しながら泣いている姿は、本当に痛々しくてかわいそうです。 こんな女性の共通項は、 (1)結婚前まで仕事を充実してこなしてきていること (2)結婚・退職・海外赴任という、人生の重要な出来事がごく短期間に集中していること (3)勤勉で、遊びを楽しむことが不得手であること 芯がとてもしっかりしていて、ご主人の会社での苦労にも理解を示すことができます。 彼女達は、朝、出社するご主人を見送ると「今日一日」という長い時間の前に、ぽつんと一人取り残されます。アパートの中の家事には限りがありますし、「あとは、自由にゆっくり過ごせばいい。」と言われても、ショッピングもエステも高級料理も、直に飽きてしまいます。初めての海外生活では、人間関係や社会関係でも孤立状態が数ヶ月続きます。彼が、家を出た時点から、「ずっと、彼の帰りだけを心待ちにする自分」が居るのです。彼が急用で突然帰宅が遅れたり、週末も接待ゴルフなどで塞がってしまうと、なぜか、胸が苦しくなったり、悲しくなったり、イライラしたりしてしまいます。以前だったら、空いた時間にやりたいことがたくさんあり、彼の居ない時間を有効に使うことができたのに・・・ |
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彼の会社での充実した仕事ぶりが、嬉しくもあり、羨ましくもあり。「一日中、生産性もなく家で過ごす」自分に愕然とした差を感じ、急に焦燥感に駆られ、「自分も将来の職場復帰につながる勉強をしよう!」と、語学習得に燃えたり、趣味を作ったり、資格を目指したり、皆この苦しさから何とか自力で脱出しようと考えます。 ところが、なかなか、仕事のような充実感を感じる活動に出会えません。仕事に責任を持ち、バリバリこなし、きちんとした評価を得てきた人ほど、その「代わり」を見つけることは難しいのです。 日中に、友達と楽しくおしゃべりをしても、家に戻って虚しくなってしまいます。おしゃべりは、おしゃべりでしかないのです。「商談」「相談」に慣れていると、一日中「雑談」は、無意味なように感じます。楽しく過ごせる友達なのに、自分とは本当の価値観・生き方を共有できないように思ってしまい、友達の中にいても、孤独感を覚えるようになります。焦燥感・孤独感と共に、自分の人生の選択を後悔したり、「結婚しても会社を普通に続けていける夫」に羨望と嫉妬を感じてしまったり・・・思いもよらぬ深い考えの渦に引きずり込まれてしまうのです。決して、夫を責めているわけでも、結婚を後悔しているわけでもなく、ただこの悪循環をどうやって脱出してよいのか?どちらの方向に、自分のエネルギーや能力を発揮すべきなのか?一体どのくらい待てばこの混乱から脱出できるのか?道に迷っているだけなのです。 |
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私は、こういった女性達を好意的に診察してしまう傾向にあります。たぶん、9年前に、退職してシンガポールに着たばかりの自分と重なるからでしょう。そんな自分を支えてくれたのは、実は、シンガポールで出来た新しい友人ではなく、日本にいる古くからの友人や親類だったように思います。「自分の人生の方向性が見えなくなったら、日本に戻って、大学時代の友人や職場の元同僚に会ってきてみて。」と患者さんには伝えています。一人で考え込んで自分の人生の道を見失い、一人で泣いたり、ご主人と喧嘩を重ねたりするよりも、もっと、外側から自分を見てみて欲しいと思います。 そして、もう一つ。周囲の人に「自分が苦しい」ことを、伝えましょう。自分はこんなことで根を上げる人ではない、もっと頑張れるはずと、思うかもしれませんが、「甘え上手」も能力のうちです。人から援助を得て、そのことに感謝しながら生きてゆくことも必要なのですね。 |
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こんな女性の心理的負担を知らずに、「結婚生活って大変だな・・・」と、奥さんの重さをずっしり感じてしまうご主人は少なくありません。もめ事を避けるために、飲みに行ったり、仕事に逃避したり、仕事を言い訳にするようになったりと、夫婦で悪循環に入ってしまい、長年「これが結婚生活だ」と諦めてきているカップルも、時にいらっしゃいます。 最初のボタンの掛け違いが、一生続いてしまうのです。 新婚の男性へお願いです。しばらくの間、奥さんが自分の歩く方向を見つけるまで、なるべく精神的にそばに居てあげてください。あなたの選んだ女性は、必ず、自分の力で歩き出しますから。 |
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退職・新婚での海外生活は、女性にとって大きな危険 |
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●筆者紹介(おがわら・じゅんこ)
東京医科歯科大学医学部卒業 、東京医科歯科大学第一内科所属
国家公務員共済組合、九段坂病院にて心療内科
日本内科学会認定内科認定医 、日本心身医学会会員
2001年4月より現職