
医師 小川原 純子
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もう十年も前になりますが、内科で研修医をやっていたある冬、その年に猛威を振るっていたウイルス性胃腸炎と毎日外来で格闘していました。ひどい腹痛・吐き気・ふらつきで来院する患者さんに「今年は流行っているんですよ」「おそらく治るのに4~5日は掛かります」「お薬は…」と対応していました。そして、とうとう自分自身も強力ウイルスに罹患。本当に4~5日はしんどかった思い出があります。 体調も戻り、外来に復活した日、また、流行性胃腸炎の患者さんが。自分の診察・説明の姿勢が以前にもまして丁寧になっていることに気づき自分でも驚いてしまいました。自分が同じ体験をしたことから、無意識で患者さんの立場にすごく近づいていたようです。 人間は高等な生き物で、自分が経験していないことでも想像したり、同感したりできるものです。ところが、実際に経験した人同士には、言葉には表せない自然な納得・了解・同調があるものなのだと痛感しました。 |
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シンガポールに赴任してきて半年のご家族。ご主人は会社で、以前よりも責任が重いながらやりがいのある仕事についていました。奥さんは、子ども達も学校生活が落ち着き引越しのゴタゴタも一段落、ほっとしたようでいながら、何だか無為で空しい日を過ごしていました。 ある日、奥さんは自分の気持ちを抑えきれなくなり、ご主人の帰りを待って、“このなんとなく過ぎてしまう悶々とした気持ち”をぶつけてみたのです。運悪く、その日、ご主人は仕事で疲れているところでしたし、奥さんは自分の中で考え過ぎていたので、気持ちが先行する話し方になってしまったようです。 ご主人の「君は、そうやって考える時間があっていいね。こっちは、ヘトヘトだよ」という一言をきっかけに、話は急展開。どういうわけか「あなたの仕事で私はシンガポールまで来てあげたんでしょ…」「そんなに不満なら、お前帰れよ」と思わぬ方向に。 |
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パターンは異なっても、家族全員の生活が大きな変化に直面した時期には、こういった家庭内の葛藤・トラブルは必ず増加する傾向にあります。深刻な気持ちをぶつけ合えるのは、ご夫婦間に限られるので、衝突が激しくなるのも仕方がないことかもしれません。 そんな中で、絶対に言ってはいけない言葉が、「あなたのために来てあげた」「不満があるなら日本に帰れ」お互いの心に強い傷を残してしまう言葉です。 「あなたはいいわね。ゴルフ楽しそうで…」「お前はいいな。ランチの時間があって…」これも状況によっては避けたい言葉かもしれません。相手の立場は、そこに立ってみないと実際には分からないので、自分と比較して羨まないことは大切。相手が、『幸せで、充実して健康的に時間を過ごしてくれること』が、海外生活の何よりの安心だからです。 ポイントは、相手の立場を尊重すること、そして相手の話を傾聴すること。ご主人の方によくある失敗は、“考え方の変更や意識の改革を促すアドバイスをあげ過ぎてしまう”こと。「こう考えればいいじゃない」「そんなにこだわらなくても…無視すればいいじゃない」アドバイスが前向きで正しい解決法のこともありますが、話もそこそこにこれを繰り出すと相手に不満が残ることも多くあります。奥さんがやってしまう失敗は、自分が気持ち的に一杯一杯なので、「私はこんなに頑張っているのだから、あなたもこれくらい協力して…」とつい“日常的な要求を次々と突きつけ過ぎてしまう”こと。自分の努力を他人から認めてもらうことは非常に大切ですが、それが空回りして、相手に見返りを求めすぎてしまうことは話がややこしくなってしまいます。 最終的には「僕はこんなにやっているのに、次は何をしろというの?」とご主人にいわれてしまうケースも。奥さんが本当に欲しいサポートとご主人が“手伝っている”と主張することとのギャップとを強く感じます。要求の出し方を上手にしないといけませんね。 海外ではまさしく夫婦が、家庭の二本柱とならなければならないのでお互いの連携が大切です。相手の柱が、より安定して立っていられるようなそんな会話を心がけたいです。 |
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●筆者紹介(おがわら・じゅんこ)
東京医科歯科大学医学部卒業 、東京医科歯科大学第一内科所属
国家公務員共済組合、九段坂病院にて心療内科
日本内科学会認定内科認定医 、日本心身医学会会員
2001年4月より現職