
医師 日暮 浩実
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以前にメールでお知らせした内容を改訂、訂正し記事を書かせていただきました。お読みいただければ幸いに存じます。 世界では毎年800万人から1200万人の新たな結核の患者さんが発生し、200~300万人の方が亡くなられていると推計されています。単独の病原体による死亡数からみると未だに世界最大の感染症です。 結核は多くは肺結核という形をとります。咳、痰(血痰)、微熱などが主な症状です。結核を治療せずにおくと、5年後には半数の方は死亡、30%は自然治癒、20%は結核のまま生存していたという報告があります。 日本もかつては結核の高蔓延国でしたが、様々な対策により、結核患者数は激減しました。それでもいまだに毎年約3万人の新たな患者さんの発生があります。毎年2000~3000人の方が亡くなられています。人口10万人対の罹患率は25人程度となっています。先進工業国といわれる国の中では最も結核が多い国となっています。 シンガポールも結核の高蔓延国でしたが、対策が効を奏し、現在、罹患率は35程度です。外国人の患者さんが多くなっています。 |
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=感染= 結核の原因は結核菌です。感染は飛沫核感染という形式を取ります。 結核患者さんが咳をした時などに、体から空気中へ排出される痰やしぶき(飛沫)が空気中に浮遊します。このしぶきが乾燥して核の結核菌が空気中に漂い、これを吸い込むことが結核の感染につながっていきます。このため、例えば、患者さんと、同じ部屋でしかも締め切られた部屋で過ごした時間が長い方ほど感染を受ける確率は高くなります。また、同じ部屋にいなくても空調などの構造によっては気流によって菌が別の部屋に運ばれて感染を広げます。 しかしながら、患者さんと接触しても必ずしも結核として発病するわけではありません。 感染とは結核菌を体に吸い込むだけではなく、吸い込んで菌が体に定着、増殖することを意味します。感染は始めに気道粘膜に起こりますが、ここには繊毛があり菌を物理的に排除してくれます。また、粘液(抗体、からだを守る化学物質)を分泌していて感染を防いでくれます。 これらをかいくぐった菌が感染を起こすわけですが、感染しても人間には抵抗力がありますから、感染者全員が発病するわけではありません。発病する人は、感染した人の中で一生の間で10人中1人くらいであろうといわれています。逆に言えば、感染しても10人中9人くらいの方は結核菌を体に持ったままそのまま発病せずに一生を終えることになります。かつては多くの方が感染を受けていましたが、今では40歳時点での既感染率は10%以下程度にまで下がっています。 一生の間でというのはちょっと気になる言い方かなと思われたと思いますが、実は結核を発病した方を調べてみますと、感染から発病までかなり時間がかかっていることがわかっているのです。感染してから発病まで早くても2ヶ月以上かかるのが普通です。1年以内に発病するかたは全発病者のうち80%くらいです。2年以内としても90%から95%くらいなのです。ですから結核患者さんと接触があって、すぐに、いろいろ検査してもまだ病気でないことが多いのです。このため次にお話する接触者検診が重要なのです。 |
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=接触者健診= 結核の患者さんが発生しますと、日本なら保健所、シンガポールならTuberculosis Control Unitが、患者さんと接触があった人に対して検診を行ないます。これを接触者検診と呼びます。これは感染の広がりを最小限に食い止める有効な方法です。 このやり方は発病者の重症度により決まり、ツベルクリン検査の時期やレントゲン検査の時期が決定されます。 ここで一つ集団感染例をご紹介します。 日本のある地域で中学3年女子Aが感染源となり、事件後3年後までに46人が発病、289人が化学予防したという事例です。 <事例> 患者Aは1984年8月頃から咳があり、当初は風邪と考えられましたがよくならず85年2月になって重症な肺結核と診断されました。直ちに検診を行い同級生5人が結核であることがわかりました。患者Aは社交的で明るい生徒だったので交友関係が広かったため、検診範囲を全校生徒、教職員に拡大したところ85年2月から5月にかけて多くの患者が発見され、結局3年生29人、2年生6人、1年生5人、転校生2人の合計46人の患者が見つかりました。Aは叔母から感染を受けた可能性が強いと考えられました。Aの祖父、父、弟も発病、妹には化学予防が行なわれました。姪(生後3ヶ月)は粟粒結核となり死亡しています。その後の再調査で10年後までに更に9人発病した人がいたことがわかりました。発病者は化学予防の服薬状況がやや悪く、接触が濃厚だったものに多い傾向でした。 感染の広がりや、検診の必要性、次に述べる予防内服の必要性も感じていただけたかと思います。 |
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=予防内服= 接触者検診で発症が見つかれば、当然治療となりますし、発病していなくても、最近、感染したと判断されれば予防内服となります。 予防内服は普通はイソニアジド(これは化学名で皆さんが手にする薬の名とは異なります)という薬を体重に応じて内服します。通常は6ヶ月です。 アメリカで行なわれたイソニアジド服用後5年間の追跡調査があります。予防内服をしなかった群(約7000人)からは14%の発病がありましたが、イソニアジドを6ヶ月服用した群(約7000人)からは5%でした。結果、発病予防効果は65%程度あったことが示されました。 主な副作用としては、肝障害がありますが、これは年少者ほど起こりにくいことが示されています。他に、末梢神経炎があげられますが、ビタミンB6をともに服用することにより防止できます。後遺症を残すような副作用は知られていません。 <事例> 1996年高校3年生Bが結核を発病、1ヶ月前から咳があったとのことです。この例では同学年と同じサークル活動をしていた93人に検診を行い、53名が予防内服の対象となりました。肝機能障害のため2人が、末梢神経炎で1人が服薬を中止しました。この53人からは結核の発生はみられませんでした。 |
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=BCGについて= 日本人は、ほぼ全員の方が乳児期にBCG接種をしていて、多くの方は結核に対する免疫ができているはずです。残念ながら予防効果は完全ではありません。しかしながら、乳幼児の結核性髄膜炎、粟粒結核など重症結核になる危険性を減らすという効果に関しては証明されています。 BCGを打って数年経ちますと、ツベルクリン反応検査をしても、弱く出ることがあります。1回目の後、しばらく後に再びツベルクリン反応を行なうと1回目より大きくなりますが、これはブースター効果といわれるもので、多くは新たな感染ではありません。しかし、2回目の反応がかなり大きくなった場合には新たな感染と考えられることもあります。 |
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=治療= 結核の治療は薬です。4種類の薬を2ヶ月、続けて更に3種類の薬を4ヶ月服用することが基本です。注射を併用することもあります。 ほとんどの場合はこれで治癒しますが、中には多剤耐性菌といって薬の効きにくい菌種もあるので要注意です。また、中途半端な治療では病気を治せないばかりか、多剤耐性菌を生み出す原因にもなるので、もし、発病と診断されたら、医師と相談してきちんと治療するようにしましょう。 |
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千葉大学医学部卒、日本医師会認定産業医、日本内科学会
日本呼吸器学会、日本結核病学会、日本宇宙航空環境医学会所属